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From:通販プロデューサーの西村公児
自宅の仕事部屋にて
ブランド体験の作り方について、ご相談をいただく機会が増えました。
多くは「世界観をどう作るか」という問いです。
けれども、世界観から入ると、たいてい装飾の話で終わります。
先日発表された1つの商品が、順番の答えを示していました。
ビールメーカーが、ビールを飲みすぎないための道具を発売したのです。
本記事では、この事例からブランド体験の作り方を4つの手順に分解してご説明します。
「値引きの反対」を選んだ商品が発売されました
まず、事実を確認いたします。
ヤッホーブルーイングが、2026年8月5日に予約販売を開始しました。
ビールだけを飲むとバランスが崩れて倒れてしまうU字型のビアグラス
ビールだけ飲むとグラスがふらつき倒れるため、ビールと同程度の水を飲まないといけない仕組み
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース「ビールだけ飲むと倒れるグラス「ふらつくビアグラス by よなよなエール」 強制的に水を飲まされる仕掛けで適正飲酒を実現」(2026/8/5)/
価格も公表されています。
価格:13,750円(税込・送料別)/予約販売開始:2026年8月5日(水)9時/発送予定:2026年9月中旬/販売サイト:よなよなの里公式通販
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
ビールを売る会社が、飲むスピードを落とす道具を売る。
しかも1万3750円です。
通常の販促は、買いやすくする方向へ働きます。
この商品は、逆を向いています。
ブランド体験の作り方を考えるうえで、この逆向きが出発点になります。
ブランド体験は、価格比較を無効にします
なぜ1万3750円で成立するのでしょうか。
グラスの相場と比べれば、高いと感じます。
けれども、この商品はグラスとして比較されていません。
背景には、自社調査があります。
調査対象:636人の飲酒習慣者、調査時期:2026年5月20~21日
アルコール脱水認知:75.6%/水分補給不十分:75.0%
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
知っているのに、できていない。この落差が、商品の存在理由になっています。
売られているのは、ガラスの器ではありません。
「知っているのにできない」を道具の力で解決する体験です。
ブランド体験とは、この解決の仕方そのものを指します。
D2Cの現場を分析する専門家も、同じ方向を指摘しています。
この発想は消耗戦を選ぶことと同じだ。相手が広告費をかければこちらもかける。
成分は変わらない。処方も変わらない。変わるのは誰のどんな場面のどんな問いに答えるかだけだ。
出典:日本ネット経済新聞「【専門家が分析】比較された時点で、もう負けている。D2Cを決めるのは「良い商品」ではなく「良い文脈」だ」(山口尚大・2026/7/31)/
比較の土俵に立った時点で、価格の勝負になります。
ブランド体験の作り方とは、土俵から降りる方法のことです。
体験の入り口は、高低2つ用意します
もう1つ、見逃せない設計があります。売るだけでなく、配っているのです。
50店舗にグラス2個をお送り
応募期間:2026年8月5日~9月30日
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
飲食店へ無償で届け、体験できる場所を先に増やしています。
自社のレストランにも、試せる形を置きました。
「ふらつくビアグラス&よなよなエール(350ml缶)セット」を880円(税込)で提供
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
1万3750円と880円。
この2つが、同じブランド体験への入り口として並んでいます。
880円で触れた人が、語り、撮り、そして選びます。
小さな会社が学ぶべきは、価格の高さではありません。
入り口を高低2つ用意した設計のほうです。
自社に置き換えれば、体験版の同梱物や少額の試供セットが該当します。
ブランド体験の作り方は、4つの手順に分解できます
ここから、実務の手順に落とし込みます。
第1に、続けて取り組む立場を1行で決めます。
この会社は、その立場を明記していました。
適正飲酒はクラフトビールメーカーとして継続して取り組んでいくべき課題
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
第2に、その立場が試される「場面」を特定します。
今回であれば、お酒が進んで水を忘れる場面です。
場面が具体的なほど、比較されにくくなります。
第3に、その場面で触れる「道具」を決めます。
道具は商品でなくても構いません。
同梱するカードでも、7日目に届くメールでも成立します。
第4に、納得のいくまで試作します。
7回の試作を経て現在のグラスの形が実現
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
形状の説明も、具体的でした。
くびれを作り、口を外側に開く形
底面が半球状であると接地面の面積が少なく自立しないため、車のタイヤのような角に丸みがあり中央が平らな形状
出典:株式会社ヤッホーブルーイング プレスリリース(2026/8/5)/
ふらつくが、倒れきらない。その加減のために、7回つくり直しています。
ブランド体験の作り方において、この工程は省けません。
思想は、形の精度でしか伝わらないためです。
指標は、売上より先に「語られた回数」を見ます
最後に、測り方を整理いたします。
ブランド体験は、短期の売上では評価しにくい取り組みです。
ですので、先に見るべき指標を変えます。
感想が届いた件数です。
写真が投稿された件数です。
問い合わせの中で、商品名が語られた回数です。
これらが動いていれば、体験は機能しています。
私が支援してきた松尾農園グループさんでは、10年で3,000通以上のお褒めの言葉を頂きました。
いまでは売上の90%が、既存のお客様から生まれています。
送り続けられた理由は、伝えたい立場が先にあったからです。
立場がないメールは、続きません。
ブランド体験の作り方は、続けられる立場を持つことから始まります。
まとめ|比べられない商品は、思想から生まれます
ビールメーカーが、水を飲ませる道具を出しました。
価格は1万3750円で、試作は7回。
飲食店50店舗には、無償で配ります。
やっていることは、値引きの反対です。
立場を決め、形にし、体験できる場所を増やす。
この順番が、比較の土俵から降りる方法です。
直線のファネルを、同心円のファネルへ。
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