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From:通販プロデューサーの西村公児
自宅の仕事部屋にて
ニッチ戦略という言葉に、不安を覚えたことはありませんか。
対象を狭めれば、お客さまの母数は確実に減ります。
母数が減れば、売上も減る気がします。
だから多くの会社が、間口を広げるほうへ舵を切ります。
ところが、間口を広げて売上が伸びたという話を、私はほとんど聞きません。
広げた瞬間に、比べられる相手が一気に増えるからです。
比べられれば、最後は価格で決まります。
広げるほど、値段以外の理由がなくなっていくのです。
今日は、その逆をやって3年続いている小さな店の話をさせてください。
主役は、動かない鳥です。
関東でたった1つの常設店が、3年目を迎えた
舞台は、JR上野駅の改札の中です。
フェリシモの雑貨ブランド「YOU+MORE!」のエキュート上野店です。
この店は2023年7月20日にリニューアルオープンしました。
同社の発表によれば、関東で唯一の常設店です。
ストアコンセプトは「テーマパーク上野」です。
動物モチーフの雑貨を中心に、約400点が並んでいます。
出典は株式会社フェリシモのプレスリリース(2023年7月20日)です。
フェリシモは創立1965年5月、東証スタンダード上場の通販会社です。
規模でいえば、決して大きな話ではありません。
それでもこの店は、この夏でリニューアル3周年を迎えました。
3周年の主役に選ばれたのは「動かない鳥」だった
記念フェアは2026年8月13日から9月13日まで開かれています。
主役はハシビロコウです。
店内の壁面には、ハシビロコウの「ほぼ等身大フォトパネル」が期間限定で登場しました。
店舗限定の新商品も8種類が並びます。
価格はクリアファイルが385円、マグネットクリップが440円、キーホルダーが550円です(いずれも税込)。
出典は株式会社フェリシモのプレスリリース(2026年8月7日)です。
ここで立ち止まっていただきたいのは、テーマの狭さです。
動物全般でもなく、人気キャラクター全般でもありません。
鳥、それも1種類だけです。
しかもハシビロコウは、同社の言葉を借りれば「動かない」姿で話題の鳥です。
商業的には、これ以上ないほど不利な特徴に見えます。
動かないものを、どうやって売り場の主役にするのでしょうか。
弱点を、お客さまが参加できる遊びに翻訳した
答えは、同じリリースの見出しに書かれていました。
「ハシビロコウとの動かない動画撮影にも挑戦できます」とあります。
動かない鳥の隣で、動かない動画を撮る。
この一文に、今日いちばんお伝えしたい設計が入っています。
この店は「動かない」という弱点を、お客さまが体を使って参加できる遊びに翻訳したのです。
商品説明でもなく、割引でもありません。
ファネル設計士として申し上げると、ここには原則が働いています。
ニッチとは、対象を狭めることではありません。
深さを一点に集めることです。
狭めただけなら、ただ売れなくなります。
狭めた分だけ深く掘って、その深さでしか作れない体験を用意する。
そこではじめて、ニッチは武器に変わります。
「動かない鳥」を深く掘ったから、「動かない動画」という遊びが生まれました。
浅いまま狭めていたら、この発想は絶対に出てきません。
3年続いている本当の理由は、年中行事にある
もう1つ、見逃せない事実があります。
この店の周年イベントは、今年が初めてではありません。
2周年のテーマは「ペア」でした。
2025年7月28日から8月31日まで、ペアのイラストで店舗限定商品を展開しています。
出典は株式会社フェリシモのプレスリリース(PR TIMES)です。
2周年は「ペア」、3周年は「動かない鳥」という流れになります。
つまり、周年の数字にちなんだテーマを毎年立て直しているわけです。
これは通販の設計として、非常によくできています。
小さな器がいちばん困るのは、お客さまが再訪する理由をなくすことだからです。
商品を並べているだけの店には、「また行こう」という日付が生まれません。
ところが周年は、黙っていても毎年やってきます。
来店の口実を、カレンダー側に埋め込んでいるのです。
100日ファン化計画の言い方をすれば、これは再訪の予定表を先に作る手です。
お客さまの記憶ではなく、暦に仕事をさせる設計だとお考えください。
385円の入口商品と、6,820円の本命商品
価格の並びも、丁寧に設計されています。
店舗限定の新商品は385円から550円です。
駅の改札の中で、通りかかった人が迷わず財布を出せる金額です。
一方、同じハシビロコウのシリーズには、通販側にこういう商品があります。
おすわりクッションが6,820円、おひざサイズが4,620円、マスコットが1,540円です(いずれも税込)。
出典は前掲の2026年8月7日のプレスリリースです。
385円から6,820円まで、約18倍の価格差が同じ1羽の鳥でつながっています。
これは私が「ベルトコンベア理論」と呼んでいる構造そのものです。
いきなり6,820円のクッションを、駅で通りかかった人に売ることはできません。
しかし385円のクリアファイルなら買えます。
そして買った人は、その日から「ハシビロコウが好きな人」になります。
好きだと自認した人にとって、6,820円はもう高い買い物ではありません。
入口商品の役割は、利益を出すことではないのです。
お客さまに、自分の好みを自認していただくことです。
いちばん唸ったのは、レジの一手でした
さて、ここまでは作る側の話でした。
私がもっとも唸ったのは、実はレジの設計です。
LINE友だち追加画面を提示すると、レジで全品3%OFFになります。
さらに、ハシビロコウのステッカーがもらえます(同店のみ・前掲リリース)。
3%です。
440円の商品なら、13円ほどの値引きにすぎません。
この13円で、店は何を手に入れているでしょうか。
その人と明日以降も連絡が取れる回路です。
駅ナカの店には、構造的な弱点があります。
たまたま通りかかった人は、たまたま帰っていくということです。
どれだけ良い体験をしていただいても、連絡先がなければ関係はそこで終わります。
だからこの店は、値引きを安さの訴求ではなく、名簿に載っていただく対価として使っています。
私がいつも申し上げている「集めて売る」は、まさにこの順番です。
売ってから集めるのではありません。
売る場面と同時に、集めるのです。
しかも集める理由を、お客さま側の得として設計しています。
ここまでやって、はじめて1回のレジが次の1年につながります。
1回きりの会計が、1年分の接点に変わるということです。
今日から動ける5つの手順
では、従業員が数人の通販は何から始めればよいでしょうか。
大きな投資は要りません。
手順1は、自社の「動かない鳥」を1つだけ決めることです。
商品全体ではなく、いちばん語れる一点を選びます。
素材でも、工程でも、創業者の癖でも構いません。
他社が短所だと思っている部分の中にある場合が多いです。
手順2は、その一点でしかできない体験を1つ作ることです。
動かない鳥だから、動かない動画。
この翻訳を、自社の一点でやってみてください。
写真でも、味見でも、実演でも構いません。
手順3は、年中行事を1つ決めることです。
創業月でも、初出荷の日でも構いません。
条件はひとつ、毎年必ず来る日にすることです。
毎年テーマを変えれば、同じ行事が毎年新しくなります。
手順4は、入口商品を1つ、500円前後で用意することです。
ここで利益は狙いません。
役割は「好きだと自認していただく」ことだけです。
その自認が、次の本命商品への橋になります。
手順5は、その場で名簿に載っていただく理由を用意することです。
LINEでもメールでも構いません。
こちらの都合ではなく、お客さまの得として差し出してください。
3%で十分に成立します。
まとめ|間口ではなく、深さで選ばれる
間口を広げると、比べられます。
比べられれば、最後は価格で決まります。
しかし深く掘った一点には、比べる相手がいません。
だから価格以外の理由で選ばれます。
駅の改札の中にある、関東でたった1つの店が3年続いています。
3周年で選んだ主役は、動かない鳥でした。
動かないという弱点を参加できる遊びに変え、385円の入口を用意し、レジで名簿に載っていただく。
規模ではなく、設計です。
今日は、自社の「動かない鳥」を1つだけ書き出してみてください。
その1行が、来年の周年イベントのテーマになります。
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