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From:通販プロデューサーの西村公児
自宅の仕事部屋にて
通販の現場で「事業継続」という言葉が出てくると、たいてい空気が重くなります。
分厚い計画書、想定シナリオ、避難訓練。
どれも大切なのですが、従業員が数人の通販にとっては、正直なところ遠い世界の話に聞こえます。
ところがこの夏、その距離感を一度ひっくり返す出来事がありました。
今日はそれを、3つの誤解を外すかたちでお伝えします。
誤解1|「危機感が足りないから、備えが進まない」
まず、こんな調査があります。
拠点が浸水想定区域など水害リスクの高い立地にある企業の93.9%が
台風・風水害を「重大なリスク」と評価しました。その他の地域でも72.7%が同様に評価しています。
ところが、事業継続計画(BCP)対応の基本である出社・帰宅の判断基準を
「完全に策定済み」と回答した企業は、47.0%にとどまりました。
(出典:ネットショップ担当者フォーラム 2026年8月19日/JX通信社
「台風・風水害に対する企業の防災意識と対策に関する調査」
国内企業でBCP関連業務に携わる関係者508名・2026年7月18〜20日実施)
93.9%と47.0%。この差を「危機感の不足」で説明するのは、無理があります。
9割を超える会社が、すでに危ないと分かっているからです。
分かっているのに決められない。
ここに、もっと構造的な理由があります。
「何を守るか」が決まっていないと、決め方も決まらないのです。
守る対象が「会社」「事業」といった大きな言葉のままだと、判断は一歩も進みません。
大きすぎる言葉は、行動に翻訳できないからです。
誤解2|「翌日に再開できるのは、資金力のある会社だけ」
次に、実例を見ます。
2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生しました。
マグニチュード7.1(速報値)、震源の深さは約10km(速報値)。
熊本県の宇城市・氷川町で最大震度7を観測しています。
(出典:気象庁 報道発表「令和8年7月28日16時27分頃の熊本県熊本地方の地震について」)
この地震で被災した企業の1つが、熊本市に本社を置くサイバーレコードです。
EC運営代行と、自治体向けのふるさと納税支援を手がけています。
熊本市中心部のビル4階にある本社オフィスが被災し、勤務していた社員は約150人。
揺れは10〜15秒程度続きました。
スプリンクラー設備が破損し、執務エリアの全域が水浸しになっています。
怪我人はなく、被害額は2000万〜3000万円規模と報じられました。
同社は社員を近くの公園へ避難させたうえで、被災の翌日から業務を全面再開しています。
(出典:日本ネット経済新聞 2026年8月18日)
翌日再開を支えたのは、資金ではなく段取りでした
現場にいた上級執行役員・AX本部長の針北陽平氏は、
当時の様子を「水がシャーッと滝のように流れていて、
何が起こっているのか分からない状態だった」と語っています。
何が起こっているか分からない状態から、翌日の全面再開です。
では、それを支えたのは資金力だったのでしょうか。
記事に書かれている理由は、違いました。
被災した自治体のふるさと納税支援を、絶対に止めてはいけない。
その使命感です。
つまりこの会社は、「誰のために止めないか」を被災する前から持っていました。
だから、迷う時間がゼロだったのです。
判断基準とは、書式のことではありません。
守る相手の顔のことです。
相手の顔さえ決まっていれば、マニュアルに書いていない事態でも判断できます。
そして実際に起こるのは、いつもマニュアルに書いていない事態のほうです。
誤解3|「止まったら、売上が減るだけ」
3つ目の誤解が、いちばん見落とされます。
災害でお店が止まると、注文が止まります。これは誰でも分かります。
ところが、本当に大きな損失は別のところにあります。
お客さまとの関係が止まることです。
注文した商品が届かず、しかも何の連絡もない時間が続くとします。
このときお客さまの中で減っているのは、売上ではありません。信頼です。
そして信頼は、売上と違って、後から一括では取り戻せません。
沈黙は、お客さまの側で最悪の想像に置き換わるからです。
けれど、これは逆から読むこともできます。
止まったときにひとこと届く会社は、その瞬間に信頼を「増やせる」のです。
普段は当たり前に届く連絡が、非常時には特別な意味を持つからです。
拙著『伝説の通販バイブル』(日本経済新聞出版・2015年12月)でも、
経営のカギを握るのはベルトコンベア理論だと書きました(※要旨)。
お客さまを次の段へ運び続ける仕組みこそが、売上を支えるという考え方です。
この「運び続ける」は、平時だけの話ではありません。
止まった日に何を送るかまで決めて、はじめて仕組みになります。
小さな通販が、今日できること
高価なシステムも、分厚いマニュアルも要りません。
第一に、「誰のために止めないか」を1行で書きます。
「顧客のため」では、まだ大きすぎます。
「毎月◯日に定期便を待っている◯◯さん」まで、具体的な顔に下ろしてください。
第二に、止まった日に送る3通を、いま書いておきます。
1通目は「無事です・状況をお伝えします」の第一報。
2通目は「発送がいつになるか」の見通し。
3通目は「再開しました・お待たせしました」の復旧報告。
平時に書いておけば、非常時には送るだけになります。
第三に、その送り先リストを、オフィスのPCの中だけに置かないことです。
水に濡れた瞬間に消えます。紙に印刷して金庫に入れるだけでも構いません。
大切なのは媒体ではなく、1か所に依存していないという状態です。
第四に、判断のスイッチを天気ではなく数字で決めます。
「大雨だったら」ではなく「警報が出たら」のように、
誰でも同じ判断ができる基準にします。社長が不在でも回すための設計です。
最後に、年1回でよいので3通を読み返す日を決めます。
商品も担当者も変わります。読み返す日を決めていないルールは、静かに死にます。
まとめ
93.9%が重大なリスクだと認識し、決めているのは47.0%。
この差を埋めるのは、危機感でも予算でもありませんでした。
執務エリアが水浸しになりながら翌日に再開した会社が持っていたのは
絶対に止めてはいけない相手の顔です。
小さな会社にとって、これはむしろ有利な条件です。
お客さまの顔が、まだ見えているからです。
今日は「誰のために止めないか」を、1行だけ書き出してみてください。
その1行が、次の非常時に迷う時間をゼロにします。
そして止まった日に届く1通が、あなたのお店を「ただの店」から「わたしの店」に変えます。
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